ロシア南部ヴォルゴグラードの、ママエフ・クルガンの丘の麓に立つサッカー競技場。2018年FIFAワールドカップに向けて旧中央スタジアムの跡地に建てられ、逆さの円錐台をなす鋼の格子外殻と、自転車の車輪のようにケーブルを張った屋根を特徴とする。
§1 — 概要概要
ヴォルゴグラード・アリーナ(Volgograd Arena / Волгоград Арена)は、ロシア南部ヴォルゴグラード州の州都ヴォルゴグラードにあるサッカー専用スタジアムである。ヴォルガ川の右岸、第二次世界大戦のスターリングラード攻防戦を記念するママエフ・クルガンの記念碑群のすぐ下に位置する。2018年FIFAワールドカップの会場の一つとして新設され、大会後は地元のFCロートル・ヴォルゴグラードの本拠地となった。大会時の収容人員は約4万5千人である。
歴史
敷地には1962年に開場した中央スタジアムがあり、長くロートルの本拠地として使われていた。ワールドカップ開催に向けて全面的な建て替えが決まり、2014年秋に旧スタジアムの解体が始まった。整地の過程では大戦期の不発弾が300発以上見つかり、撤去されている。本体工事は2015年に本格化し、2016年には客席を含むコンクリートの躯体がほぼ立ち上がった。完成は予定していた2017年末から遅れ、2018年4月3日に供用が始まり、同月21日に最初の試合が行われた。設計段階では「ポベーダ(勝利)」の名で呼ばれていた。
計画の出発点は、ドイツの設計事務所フォン・ゲルカン・マルク・アンド・パートナーズ(gmp)が大会準備の初期に作成した案である。gmp自身は、この案がロシア側の協力者によって、とくに構造の面で変更を加えられながら独自に実施されたと説明している。実施に向けた設計はロシアの設計研究所「アリーナ」がまとめ、施工はストロイトランスガスが一括して請け負った。
大会では2018年6月18日から28日にかけてグループリーグの4試合が行われ、6月28日の日本対ポーランド戦もその一つである。
建築的特徴
外観は、上に向かって広がる円錐台を逆さに置いた形をとる。高さは49.5メートル、直径は約300メートルに達する。裾をすぼめた形は、限られた敷地に大きな客席を収めるための解決であり、外へ張り出した上部はそのまま入口前の庇として働く。外殻は斜材を交差させたダイアグリッド状の鋼構造で、大小の菱形からなる網目の内側にステンレスの細かなメッシュが張られている。昼は透かし編みのように軽く見え、夜は照明によって全体が浮かび上がる。
屋根は競技面の上だけを開け、観客席の全体を覆う。構造は外周の圧縮リングと内側の引張リングをケーブルで放射状に結ぶスポークホイール構造で、自転車の車輪を水平に寝かせたような原理により、客席の視界を遮る柱のない大屋根を実現した。ケーブルによる形式は、空間の使い方と鋼材の量の両面で合理的な方式として選ばれている。
外殻の3メートルほど下には、スタジアムを一周する歩行者用のデッキがめぐる。このデッキは幅の広い斜路と8本の階段によって平面上で五芒星をかたちづくり、周囲の通路と舗装も赤い星を描いて、ソ連の勝利勲章を思わせる図柄にまとめられている。戦勝の記憶をもつ都市という性格を、配置計画にまで持ち込んだ構成である。
意義・現在
ヴォルゴグラード・アリーナは、2018年大会に向けてロシア各地で建てられた新スタジアム群の一つであり、ニジニ・ノヴゴロドの競技場と同じく、gmpの原案がロシア側の手で実施に移された例にあたる。
大会後はFCロートルの本拠地として使われ、2024年7月にはロシア・スーパーカップの試合会場ともなった。サッカーのほか、市の各種の催しにも用いられている。一方、2018年7月と2019年6月には豪雨で近くの斜面と歩道が崩れ、補修が行われている。