ドーリア式
Doric order概要
ドーリア式(Doric order)は、古代ギリシアの三つの建築オーダー(ドーリア式・イオニア式・コリント式)のうち最も古く、最も簡素な様式である。重厚で力強い比例を特徴とし、神殿建築の骨格を整える規範として、古典建築の出発点となった。
時代・地域
前7世紀ごろ、ギリシア本土のドーリス系の地域と、シチリアや南イタリアの植民市(マグナ・グラエキア)で成立し、前5世紀の古典期に完成の域へと達した。のちにローマがトスカナ式として受け継ぎ、18〜19世紀のグリーク・リヴァイヴァルでも力強さの範とされた。
形態的特徴
円柱は背が低く太く、量塊感が強い。柱身には通常20条の浅い縦溝(フルーティング)が刻まれ、稜線は鋭く接する。ギリシアのドーリア式では独立した柱礎(ベース)を持たず、列柱は基壇(ステュロバテス)の上に直接立つ。柱身の中ほどがわずかに膨らむエンタシスは、遠望したときの硬さや錯視を補正するための工夫である。周囲を一列の柱列で囲む周柱式の神殿が、その典型をなす。
柱頭は、丸い皿状のエキノスと方形のアバクスからなる簡素な形で、イオニア式の渦巻きやコリント式の植物装飾を持たない。柱上の水平材(エンタブラチュア)では、三本の縦溝をもつトリグリフと方形のメトープがフリーズに交互に並び、メトープにはしばしば浮彫が施される。装飾を抑えた厳格な構成が、ドーリア式の禁欲的な気品を生む。
代表建築
最も完成された例はアテネのパルテノン神殿であり、エンタシスや稜線の微妙な反りといった精緻な補正の集大成として知られる。本データベースでは、古代神殿をそのまま取り込んだシラクサ大聖堂が、ドーリア式の列柱を今に伝える稀有な例である。また、ロンドン大火のモニュメントは、巨大なドーリア式円柱を記念柱に転用した近世の作例として挙げられる。
前後様式との関係
ドーリア式は、より細身で渦巻きの柱頭をもつイオニア式、アカンサスの葉で飾るコリント式とともにギリシアの三オーダーをなし、その最古に位置する。ローマ建築では基部を加えた変種やトスカナ式へと展開し、近世以降は古典の規範として繰り返し参照されて、新古典主義やグリーク・リヴァイヴァルにおいて力強さの象徴として復活した。