ルネサンス建築
盛期ルネサンス(High Renaissance)は、おおむね15世紀末から1520年代にかけて、主にローマを中心に展開したルネサンス建築の頂点をなす段階である。15世紀フィレンツェに始まった初期ルネサンスが古代建築の語彙を再発見し、比例と数的秩序を建築に取り戻したのに対し、盛期ルネサンスはその成果を統合し、完璧な均衡と記念碑性をそなえた古典的理想を打ち立てた。
中心となったのはブラマンテである。ミラノからローマへ移った彼は、古代ローマの遺構を直接研究し、円形堂やドーム、ペリスタイルといった古典の要素を、単なる引用ではなく構成原理として再生させた。サン・ピエトロ・イン・モントリオの中庭に建つテンピエットは、その理念を最も凝縮して示す作例であり、簡潔なトスカナ式の円柱列とドームによって、小さな建物ながら古代神殿の荘厳を体現した。ブラマンテが構想した新サン・ピエトロ大聖堂の集中式平面も、この段階の壮大な理想を象徴する。
様式の特徴は、左右対称と明快な幾何学、各部の比例的調和への徹底した志向にある。装飾は構造の秩序に従属し、全体は静的で安定した均衡へ向かう。やがてミケランジェロやラファエロらの世代において、この均衡は緊張と動性をはらみ、続くマニエリスムやバロックの劇的空間へと展開していくことになる。盛期ルネサンスは、古典の規範が最も純粋な形で結晶した、短くも決定的な頂点であった。