ローマ、ジャニコロの丘のサン・ピエトロ・イン・モントリオ修道院の中庭に建つ小円堂。聖ペテロ殉教の地を記念し、ブラマンテが古代神殿に範を仰いで設計した。盛期ルネサンス建築の到達点とされ、後世の数多のドーム建築の祖型となった。
§1 — 概要概要
ローマ西部、ジャニコロの丘に建つサン・ピエトロ・イン・モントリオ修道院の中庭に置かれた、小さな円形の記念堂である。イタリア語で「小神殿」を意味するテンピエット(Tempietto)の通称で知られ、使徒ペテロが殉教したと伝えられる地を記念する殉教者記念堂(マルティリウム)として、スペイン王フェルナンドとイサベルの寄進により建てられた。設計者はドナト・ブラマンテで、盛期ルネサンス建築の最も純粋な結晶とされる。
歴史
ブラマンテは1500年ごろこの建設を委ねられ、伝統的には建物の着工は1502年とされる。ただし完成時期には諸説があり、本体の竣工を1509年前後、内部装飾の完了を1512年ごろとする見方もある。ミラノからローマへ移ったばかりのブラマンテは、当時ローマに数多く残っていた古代の円形神殿やウェスタ神殿などを直接研究し、その成果を惜しみなく注いだ。当初は円堂を同心円状の列柱廊で取り囲む構想もあったが、これは実現していない。記念堂はその後、ブラマンテによる新サン・ピエトロ大聖堂計画の先駆としても重要な意味を帯びることになる。
建築的特徴
建物は完全な円形平面をとり、簡素なトスカナ式の円柱が周囲をめぐるペリスタイルの上に、エンタブラチュアとドームを戴く。トスカナ式はドーリア式を切り詰めた力強い様式で、男性的な聖人とされたペテロにふさわしいものとして選ばれた。各部は厳密な比例関係で結ばれ、小さな建物ながら古代神殿の荘厳と完結性を体現している。ルネサンス建築においてトスカナ式を意識的に用いた最初期の作例であり、外周の列柱・円筒形の身舎(ドラム)・半球ドームという三層構成は、以後の記念碑的なドーム建築の規範となった。
意義・現在
テンピエットは、規模こそ小さいものの「ローマにおける最初の真のルネサンス建築」と評され、建築史上の転換点とみなされてきた。古代の語彙を引用にとどめず、完璧な比例と幾何学によって統合した点に、盛期ルネサンスの理念が凝縮されている。セバスティアーノ・セルリオやアンドレア・パッラーディオは自著にその図面を収め、古代の神殿と並べて論じた。今日も修道院の中庭に静かに建ち、規模を超えた影響力ゆえに、西洋のドーム建築の系譜の起点として参照され続けている。
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