モスクワの劇場広場に建つオペラ・バレエの殿堂。1825年にオシップ・ボヴェの設計で開場し、1853年の火災後にアルベルト・カヴォスが再建した。八本柱のポルティコをアポロンのクアドリガが戴く新古典主義の建物で、ロシアを代表する文化の象徴である。
§1 — 概要概要
ボリショイ劇場は、ロシアの首都モスクワ、劇場広場に建つオペラ・バレエの殿堂である。「ボリショイ」はロシア語で「大きい」を意味し、世界最古・最大級のバレエ団とオペラ団の本拠地として知られる。八本の柱が並ぶ堂々たるポルティコを、アポロンを乗せたブロンズのクアドリガが戴く新古典主義のファサードは、モスクワを象徴する光景であり、ロシアの100ルーブル紙幣にも描かれている。
歴史
劇団の起源は1776年にさかのぼるが、現在の建物は、1805年に焼失した先代の劇場に代わって、1821年から建設された。設計競技で選ばれたアンドレイ・ミハイロフの案をもとに、モスクワの復興を担った建築家オシップ・ボヴェが工事を進め、1825年に開場した。先代より大きかったことから「大劇場(ボリショイ)」と呼ばれた。しかし1853年、三日間にわたる大火で、外壁と列柱を残して焼け落ちる。再建を託されたのはアルベルト・カヴォスで、彼はわずか三年で建物をよみがえらせ、1856年、皇帝アレクサンドル2世の戴冠に合わせて再開場した。現在見られる劇場は、おおむねこのカヴォスの再建による姿である。
建築的特徴
ボリショイ劇場は、ロシア新古典主義(アンピール)を代表する建物である。正面には八本の白い石柱が並ぶポルティコが構えられ、その上のペディメントを、彫刻家ピョートル・クロットによるアポロンのクアドリガが飾る。カヴォスは再建にあたり、ボヴェの列柱を生かしつつ、もう一段のペディメントを加え、かつての三頭立ての馬車を四頭立てのブロンズ像に改めた。内部の客席は、細部のひとつひとつまでが音を響かせる「楽器」として設計され、赤と金で彩られた豪奢な空間と、すぐれた音響で名高い。
意義・現在
ボリショイ劇場は、チャイコフスキーの《白鳥の湖》の初演をはじめ、ロシアのオペラ・バレエの歴史を刻んできた舞台であり、国家の誇りとも結びついた文化の象徴である。火災や戦争、革命を乗り越えて今日に至り、2005年から2011年にかけては、傷んだ基礎の全面的な入れ替えを含む大規模な修復を経て、ふたたび幕を開けた。