ゲネックス・タワー Genex Tower
セルビアの首都ベオグラード、新ベオグラード地区に立つブルータリズムの高層建築。空港側からの市の玄関口を象徴する「西の門」として、ミハイロ・ミトロヴィッチの設計で1977年から1980年に建設された。二棟を空中橋で連結し頂部に回転レストランを戴く。
§1 — 概要概要
セルビアの首都ベオグラード、サヴァ川対岸の新ベオグラード(ノヴィ・ベオグラード)地区に立つ高層複合建築である。正式には「西の門」(セルビア語: Западна капија/Zapadna kapija)と呼ばれ、かつて入居した貿易公社にちなむ通称ゲネックス・タワーで広く知られる。空港から市内へ向かう西の幹線沿いに立ち、都市の門を思わせる姿で来訪者を迎える。社会主義期ユーゴスラビアのモダニズムを代表する打放しコンクリートのメガストラクチャーであり、設計はセルビアの建築家ミハイロ・ミトロヴィッチによる。
歴史
当初ミトロヴィッチに与えられたのは、地区の小規模な事務所棟の計画にすぎなかった。彼はこれを、市の西の玄関口を象徴する二棟の高層建築という構想へ拡大して提案した。計画は審査の各段階で激しい異論にさらされ、建築家自身が幾度も委員会の前で説明を重ねたが、構想は貫かれた。建設は1977年から1980年にかけて行われ、完成時にはバルカン半島で最も高い建築物の一つとなった。1979年には基部に画家ラザル・ヴヤクリヤによる壁画が描かれている。一方で入居した貿易公社ジェネックスは後に破綻し、商業棟は長く空室を抱えることになった。
建築的特徴
構造は二棟のタワーからなる。一方は住宅棟、他方は事務所棟で、両者は高層部で二層分の空中橋によって連結される。各棟の両端には円筒形の設備シャフトが垂直に立ち上がり、打放しコンクリートの躯体とともに、力強い幾何学的なシルエットを描く。頂部には円形のレストランが載るが、回転機構は実際には作動しなかった。コルビュジエ後期の影響を受けつつ、構造そのものを造形として露出させる手法は、ブルータリズムの典型を示す。高さはおよそ115メートル、地上35階を数え、完成から長くベオグラード随一の高層建築であり続けた。
意義・現在
ゲネックス・タワーは、東西いずれの陣営にも属さなかったユーゴスラビアが、自国の経済力と進取の気概を可視化しようとした記念碑として読まれてきた。建設当時から賛否の渦中にありながら、今日ではベオグラードの都市景観を象徴する存在となっている。ニューヨーク近代美術館の2018年の展覧会「コンクリート・ユートピアへ」で旧ユーゴスラビア建築の代表例として紹介されるなど、国際的な再評価も進んだ。2021年にはベオグラード市の文化財に指定された。老朽化や所有をめぐる問題を抱えつつも、二十世紀後半の社会主義建築を伝える重要な遺構である。