タリン旧市街の外れ、海に臨む巨大な段状構造物。1980年モスクワ五輪のヨット競技に合わせて建設された旧レーニン記念文化スポーツ宮殿で、屋上まで市民が上れるソ連期ブルータリズムの記念碑である。
§1 — 概要概要
リンナハル(Linnahall)は、エストニアの首都タリンの臨海部、旧市街の城壁のすぐ外側に立つ多目的施設である。海へ向かって階段状に低く広がる巨大な構造物で、屋上が市民に開かれた展望空間となる点に特色がある。ソ連時代の正式名称はV・I・レーニン記念文化スポーツ宮殿といい、コンサートホールとアイスリンクを擁した。設計はライネ・カルプとリーナ・アルトメーエによる。
歴史
建設は1980年のモスクワ夏季オリンピックと結びついている。内陸のモスクワにはヨット競技に適した会場がなく、その開催がエストニア・ソヴィエト社会主義共和国の首都タリンに委ねられた。主会場のピリタ・ヨットセンターとあわせ、市の中心建築家ドミートリ・ブルンスが臨海の一帯を文化施設の用地として確保し、1975年から旧来のコンクリート工場や倉庫の解体が始まった。1970年代後半に建設が進み、1980年に完成、こけら落としはエストニア共和国建国四十周年の祝典であった。ソ連解体後は録音スタジオや市場、ナイトクラブなど雑多な用途に転じ、2009年にアイスリンク、2010年にコンサートホールが閉鎖された。
建築的特徴
構造は打放しのコンクリートと石灰岩によるブルータリズムに属する。低く水平に伸びる量塊、露出したコンクリートの荒々しい質感、幾何学的に反復される大階段が特徴で、建物そのものが海へ下りていく人工の地形のように扱われている。屋上は広大な段状の観覧席・遊歩空間となり、そこからバルト海とタリン湾を一望できる。内部には約四千二百席の大ホールと、後年エスプラナード下部に設けられた三千席のアイスホールが組み込まれていた。施工の質は必ずしも高くなかったと批判される一方、その独創的な構成と造形は高く評価され、ビエンナーレInterarh-83のグランプリや国際建築家連合の賞を受けた。
意義・現在
リンナハルは、旧ソ連圏のブルータリズムを代表する記念碑的建築として知られる。2010年以降はコンサートホールもリンクも閉じられ、なかば放置された状態にあるが、屋上テラスは今も市民や旅行者に親しまれ、映画のロケ地としても用いられてきた。市は改修と再生を繰り返し検討してきたものの、費用や工期の問題から具体化には至っていない。国の建築記念物に指定されており、その処遇はタリンの都市計画上の大きな課題であり続けている。