主の降誕大聖堂 Nativity of Christ Cathedral
モルドバの首都キシナウの中心に立つ正教会の大聖堂。建築家アヴラアム・メルニコフの設計により1830年代に建てられた、ドーリア式の列柱とドームをもつ帝政様式の集中式聖堂で、市の都市計画の中核をなす。
§1 — 概要概要
主の降誕大聖堂(Catedrala Nașterea Domnului)は、モルドバの首都キシナウの中心、国民大会議広場のほとりに立つ正教会の大聖堂である。1817年の都市計画で街の中心に据えられた聖堂として構想され、ドーリア式の列柱とドームによる荘重な集中式の構成をもつ。鐘楼や聖門とともに、キシナウの都市核を形づくる建築群を成す。
歴史
ベッサラビアの府主教ガヴリイル・バヌレスク=ボドニと、ノヴォロシア総督ヴォロンツォフ公の発意により、1830年から1836年にかけて建設された。設計は帝政様式を代表するロシアの建築家アヴラアム・メルニコフが担い、1836年10月に成聖された。第二次大戦では爆撃で大きく損傷し、戦中から戦後にかけて修復された。1962年にはソ連当局によって鐘楼が爆破され、聖堂は美術展示場へ転用される。1989年に教会へ返還されると修復が進み、1996年まで作業が続けられたほか、鐘楼も1997年に往時の姿をもとに再建された。
建築的特徴
平面は一辺およそ27メートルの正方形を基本とし、四方にドーリア式の六本柱からなるポルティコを張り出して十字形をなす。中央には円筒形のドラム(鼓胴)が立ち、12の窓から光を採り入れたうえで大きなドームをいただく。建設当初は放物線状であったドームは、20世紀の修復で球形に改められた。古代ギリシアの厳格なオーダーを用いた点に、帝政様式(ロシア・アンピール)の特質がよく表れている。
意義・現在
メルニコフによるこの大聖堂は、19世紀初頭のロシア帝国がベッサラビアに刻んだ都市計画の中心であり、ドーリア式と集中式ドームを組み合わせた帝政様式の達成として知られる。破壊と再建を重ねながらも、現在はモルドバ正教会の府主教座大聖堂として、街の象徴的な中心であり続けている。2016年には建設180周年を記念してモルドバ国立銀行が記念銀貨を発行し、国の象徴的建築としての位置づけをあらためて示した。