ニューデリーに建つインド大統領の官邸。英領期に副王の公邸として、エドウィン・ラッチェンスの設計で1912年に着工し1929年に完成した。古典主義にインド在来の意匠を融合させた壮大な建築で、340室を擁する。
§1 — 概要概要
ラーシュトラパティ・バワン(राष्ट्रपति भवन、「大統領の館」)は、ニューデリーのライシナ・ヒル西端に建つインド大統領の官邸である。英領期にはインド副王の公邸(Viceroy's House)として建てられ、独立後の1950年に共和国大統領の官邸となった。主棟は四階建てに地階を備え、340の部屋と全長約2.5キロメートルに及ぶ廊下をもつ巨大な建築である。
歴史
1911年、イギリスはインドの首都をカルカッタからデリーへ移すと決め、新首都建設の中核として副王公邸の造営が始まった。設計を委ねられたのはエドウィン・ラッチェンスで、1912年に着工し1929年に完成した。新都市の全体計画は建築家ハーバート・ベイカーと共同で進められたが、両者は公邸へ至る大通りの勾配をめぐって激しく対立し、ラッチェンスはこの敗北を、ベイカーの名とワーテルロー(Waterloo)をかけて「ベイカールー」と呼んで悔やんだという逸話で知られる。建物は1931年に副王の住まいとなり、独立後は総督公邸を経て大統領官邸となった。
建築的特徴
ラッチェンスは西洋の古典主義を基礎としつつ、インド在来の意匠を大胆に取り込んだ。頂部を戴く大ドームは仏教遺跡サーンチーのストゥーパの欄楯に着想を得たもので、列柱のポルティコが正面を飾る。軒には強い日射と季節風の雨をしのぐ庇チャジャがめぐり、屋上には小亭チャトリが、開口部には透かし格子ジャーリーが配される。赤砂岩とクリーム色の砂岩を組み合わせた壁面が、広大な水平の構成に色彩と陰影を与えている。
意義・現在
東西の様式を統合したこの建築は、しばしば「デリー・オーダー」と呼ばれ、ラッチェンスの最高傑作とされる。一方で、それは植民地支配の威信を可視化する装置でもあった。独立したインドはこれを壊さず大統領官邸として受け継ぎ、ムガル様式の庭園とともに国家の象徴として活用している。デリー首都圏の重要遺産建造物に指定されている。