マルタ島モスタに建つカトリックの聖堂。ローマのパンテオンに範をとり、ジョルジョ・グロニェ・ド・ヴァッセの設計で1833〜1860年に建てられた、無補強ドームとしては世界有数の規模を誇る新古典主義の円堂である。
§1 — 概要概要
モスタ・ドーム(Rotunda of Mosta)は、マルタ島中部のモスタに建つローマ・カトリックの教区聖堂で、正式には聖母被昇天聖堂と称する。古代ローマのパンテオンを範とした円形平面と巨大なドームをもち、無補強のドームとしては世界有数の規模を誇る。マルタ最大の教会堂としても知られる。
歴史
現在の聖堂は、17世紀初頭にトンマーゾ・ディングリが手がけたルネサンス様式の旧教会の跡地に建てられた。設計はマルタの建築家ジョルジョ・グロニェ・ド・ヴァッセが担い、1833年に着工、1860年代にかけて完成した。建設は既存の旧堂を取り囲むように進められ、新堂の完成後に内側の旧堂が解体されたと伝えられる。第二次世界大戦中の1942年4月9日、ミサの最中にドームを貫いて落下したドイツ軍の爆弾が不発に終わった出来事は、地域の語り草となっている。
建築的特徴
平面は円形で、正面にコリント式のポルティコ(柱廊玄関)を構え、上部に三角形のペディメントを戴く。内部は無柱の大空間が一気に立ち上がり、頂部のオクルスから光を落とす構成は、パンテオンの理念を19世紀によみがえらせたものである。内径約40メートルに及ぶドームは石造で、厚さ約9メートルの周壁がこれを支える。柱廊から円堂へと連なる外観の構成は、パンテオンの図式をほぼ忠実に踏襲している。
意義・現在
モスタ・ドームは、新古典主義がパンテオンという古代の理想を島嶼の信仰空間へと翻案した好例である。住民の寄進と労役によって数十年をかけて築かれた経緯は、共同体の事業としての教会建築のあり方を伝える。教皇庁からはバシリカ・マイナーの格式を与えられている。現在も現役の聖堂として礼拝に用いられ、戦時の不発弾の逸話とともに、マルタを代表する建築のひとつとして広く知られている。