アゼルバイジャンの首都バクーのモスク。慈善家アシュルベヨヴァの寄進により、建築家アフマドベヨフの設計で1905年に起工し1914年に完成した。シルヴァン=アブシェロンの石造伝統を近代に甦らせた作品。
§1 — 概要概要
アゼルバイジャンの首都バクーに立つシーア派のモスク。14〜15世紀の聖者の墓廟「タザ・ピル(新しい聖所)」を起源とし、20世紀初頭に現在の堂が建てられた。アゼルバイジャン初の専門教育を受けた建築家ズィヴェル・ベイ・アフマドベヨフの設計により、地域の石造伝統を近代に甦らせた代表作として知られ、現在はカフカース・ムスリム宗務局が置かれている。
歴史
建設は、石油事業で財を成した女性慈善家ナバト・ハヌム・アシュルベヨヴァの寄進によって実現した。彼女はアフマドベヨフを東方イスラーム諸国へ派遣してモスク建築を学ばせ、その成果をもとに1905年7月、古い小モスクの跡地で礎石が据えられた。資金難やバルカン戦争に伴う統制で工事は度々中断したが、施主の没後はその息子が支え、技師エウゲニウシュ・スキビンスキが支保工を用いない工法でドームを構築するなどして、1914年に完成した。1917年の革命後はわずか数年で閉鎖され、映画館や倉庫として使われたが、1943年に再びモスクとなり、2005〜2009年に大規模な改修を受けた。
建築的特徴
正面は三連アーチの深いポルティコを中心に構成され、その両脇から二本のミナレットが立ち上がる。背後には弾力のある輪郭のドームがのぞき、対称的で端正なまとまりを見せる。19.6メートル四方の方形の礼拝室に大ドームが架かり、内部は大理石のミフラーブや、アゼルバイジャン各地の絵画の流派による文様と東方の意匠で飾られる。建材にはバクーで初めて白色の石が本格的に用いられ、ドームの上やミナレットの頂には金が施された。全体はシルヴァン=アブシェロン建築学派の石造の語法を踏まえつつ、近代の規模で再構成されている。
意義・現在
タザ・ピル・モスクは、20世紀初頭のバクーにおける民族的・宗教的な自覚と、近代化のなかでの伝統の再評価を体現する建物である。アゼルバイジャンを代表する宗教建築の一つとして、丘の上から街並みに映える姿は今も都市の象徴となっている。アゼルバイジャンの文化遺産に指定されている。