高さ約162メートルの尖塔を持つ、世界一高い教会堂。ドイツ・ウルムに1377年に着工したゴシックの大教会で、数世紀の中断を経て、後期ゴシックの図面に基づき1890年に完成した。司教座を持たないため、厳密には大聖堂ではない。
§1 — 概要概要
ウルム大聖堂(Ulmer Münster)は、ドイツ南部バーデン=ヴュルテンベルク州のウルムに建つゴシックの大教会である。高さ約162メートルの西塔は、教会堂としては世界一の高さを誇る。「大聖堂」と訳されることが多いが、司教座が置かれたことはなく、厳密には大聖堂(カテドラル)ではない。現在はドイツ福音主義教会に属する。塔と装飾は石造だが、身廊などの壁面の多くは煉瓦で築かれており、「煉瓦の教会」とも呼ばれる。
歴史
ウルム大聖堂は、中世盛期の都市の繁栄を背景に、市民の手で1377年に着工された。当初の建設はパーラー一族の棟梁によって始められ、1392年からはウルリヒ・フォン・エンジンゲンが引き継いで、壮大な単塔の構想を打ち出した。15世紀後半にはマテウス・ベブリンガーが塔の新たな立面案を作成したが、構造上の問題から工事は16世紀に中断する。中断の時点で、塔と外装の一部を除いて建物はほぼ完成していた。数世紀の休止を経て、19世紀の歴史主義の時代に建設が再開され、主任建築家アウグスト・フォン・バイヤーのもと、ベブリンガーらの中世の図面に基づいて1890年に西塔が完成した。
建築的特徴
大聖堂は後期ゴシックの様式により、垂直性を徹底的に追求した造形をもつ。最大の見どころは、透かし彫りのトレーサリーに全体を覆われた西塔で、石の繊細な網目が天へと収斂していく。内部は高い身廊をリブ・ヴォールトが覆い、立ち並ぶ柱が空間を律する。壁面の主体が煉瓦であるのに対し、塔や窓まわりの細部は砂岩によって精緻に刻まれ、素材の対比が外観に独特の表情を与えている。塔の螺旋階段は768段を数え、上部の展望台からはウルムの市街とドナウ川流域、晴れた日にはアルプスまでを望むことができる。
意義・現在
ウルム大聖堂は、中世に構想された壮大な計画が、数世紀を隔てて19世紀の技術と情熱によって完成された、稀有な事例である。世界一高い教会塔という記録とともに、ゴシックの理想が時代を超えて受け継がれたことを示す象徴的な建築として知られる。第二次世界大戦の空襲で周囲の旧市街が大きな被害を受けたなか、大聖堂は焼失を免れ、今日もウルムの中心にそびえ、礼拝と観光の双方に開かれている。