インド北西部ジョードプルの丘に建つ、世界有数の規模をもつ宮殿。飢饉の救済事業として1929年から14年をかけて建てられ、イギリスの建築家ヘンリー・ヴォーン・ランチェスターが、インドの様式とアール・デコを融合させた「インド・デコ」と呼ばれる意匠でまとめた。
§1 — 概要概要
ウメイド・バーワン・パレス(Umaid Bhawan Palace、ヒンディー語: उम्मेद भवन पैलेस)は、インド北西部ラージャスターン州の都市ジョードプルに建つ宮殿である。マールワール藩王国のマハラジャ、ウメイド・シングの命で建てられ、347室を擁する世界有数の規模をもつ私邸として知られる。設計はイギリスの建築家ヘンリー・ヴォーン・ランチェスター(Henry Vaughan Lanchester)が手がけ、西洋の古典的構成にインドの様式とアール・デコの幾何学を織り込んだ独特の意匠をもつ。
歴史
20世紀初頭、ジョードプル一帯は長期の干魃と飢饉に見舞われ、農民の困窮が深刻化していた。マハラジャ・ウメイド・シングは、領民に仕事を与える救済事業として壮大な宮殿の造営を決め、1929年11月に礎石が据えられた。工事には数千人の労働者が動員され、十数年にわたって雇用を生み出しながら、1943年に完成した。建設には丘から切り出した砂岩が用いられ、職人たちはこれを精密に加工して積み上げた。完成後は藩王家の居所となり、インド独立と藩王国の統合を経て、1970年代からは一部が博物館およびタージ・グループが運営する高級ホテルとして公開されている。
建築的特徴
建物は、ジョードプル産の黄金色を帯びた砂岩(チットール石)を用い、ブロックどうしを噛み合わせてモルタルをほとんど使わずに組み上げる工法で築かれている。中央には大きなドームがそびえ、その下に吹き抜けの円形大広間(ロタンダ)が広がる。これを軸として東西に翼が伸びる左右対称の構成をとる。内部にはマクラーナ産の大理石やビルマ産のチーク材がふんだんに使われ、円形の広間や階段、調度には1930年代のアール・デコの感覚が色濃く反映されている。インド・サラセン様式の量感とアール・デコの直線的な装飾が一つの建物で結ばれており、その折衷は「インド・デコ」とも呼ばれる。
意義・現在
ウメイド・バーワン・パレスは、飢饉という危機に対して、王が公共事業として宮殿を建てるという独特の経緯から生まれた建築である。20世紀半ばという時代にあって、消えゆく藩王国の威信と、近代の様式であるアール・デコとが一つの記念碑に同居している点でも興味深い。現在は藩王家の住まい、博物館、ホテルの三つの機能を併せもち、往時の家具や時計のコレクションを展示する博物館部分は一般にも公開されている。砂漠の都の丘にそびえる黄金色の量塊は、ジョードプルの象徴的な景観をなしている。