ブダペストの市民公園に建つ城館。1896年の建国千年記念博覧会のために建てられ、ハンガリー各地の名建築を引用して中世からバロックまでの様式を一身に集めた、19世紀末の折衷主義建築の代表例である。
§1 — 概要概要
ヴァイダフニャド城(Vajdahunyad vára)は、ブダペストの市民公園(ヴァーロシュリゲト)に建つ城館である。建築家イグナーツ・アルパールの設計により、ハンガリー各地に実在する名建築の要素を寄せ集めて構成された。単一の様式によらず、ロマネスク・ゴシック・ルネサンス・バロックの各様式を意図的に一体化した、19世紀末歴史主義の折衷主義を体現する建築である。
歴史
この城は、895年のカルパチア盆地への移住から1000年を祝う1896年の建国千年記念博覧会のために建てられた。当初は博覧会用の仮設建築として板と厚紙で組まれたが、人気を博したため、1904年から1908年にかけて石と煉瓦による恒久建築として建て直された。設計者アルパールは、ルーマニアのフネドアラにあるフニャディ城をはじめ、旧ハンガリー王国領の各地の建築を範として引用し、それらを一つの城のなかに配した。中庭には、ベーラ3世の宮廷にいた匿名の年代記作者「アノニムス」の像が置かれている。
建築的特徴
城は、時代の異なる複数の建物を模した部分の集合体として構成されている。門塔や礼拝堂にはトランシルヴァニアのゴシック建築が引かれ、別の棟にはルネサンスやバロックの意匠が用いられる。すなわち一棟のなかを歩くだけで、ハンガリー建築史を通覧できるように仕組まれているのである。個々の引用元を忠実に再現するのではなく、記憶に残る特徴を抽出して再構成する手つきは、様式を自在に選び取るリヴァイヴァルの時代の建築観をよく示している。
意義・現在
ヴァイダフニャド城は、国民の歴史を建築の集成として可視化しようとした、歴史主義の記念碑である。ハンガリーの歴史的記念物に登録され、現在は棟内にヨーロッパ最大級の農業博物館(ハンガリー農業博物館)が入る。城の前には設計者アルパールを顕彰する像が立ち、公園の水辺とともにブダペスト市民に親しまれている。