無原罪の聖母マリア大聖堂 (モスクワ) Cathedral of the Immaculate Conception
モスクワ中心部に建つ赤煉瓦のネオ・ゴシック聖堂。ロシア最大のカトリック大聖堂で、ポーランド系建築家ボフダノヴィチ=ドヴォジェツキが設計し、1901–1911年に建てられた。ソ連時代の閉鎖を経て1990年代に再生された。
§1 — 概要概要
無原罪の聖母マリア大聖堂(Cathedral of the Immaculate Conception of the Holy Virgin Mary)は、モスクワ中心部のマーラヤ・グルジンスカヤ通りに建つカトリックの大聖堂である。モスクワ大司教区の司教座聖堂であり、ロシア国内で最大のカトリック聖堂として知られる。赤煉瓦による三廊式の十字形プランをもつネオ・ゴシック建築で、20世紀初頭のモスクワにあって、増大するカトリック共同体のために建てられた。
歴史
建設は1894年にロシア帝国内務省の認可を得て計画され、1899年に起工、1901年から1911年にかけて工事が進められた。設計はモスクワで活動したポーランド系建築家トマシュ・ボフダノヴィチ=ドヴォジェツキ。市当局は「尖塔と外部彫刻を設けない」よう条件を付したが、これに従わない計画がそれでも採用された。建設費はおよそ29万金ルーブルにのぼり、その多くがモスクワのポーランド人教区民や各地のカトリック教区の寄付で賄われた。1911年12月21日に聖別される。だがロシア革命後、無神論を掲げるソビエト政権のもとで多くの教会が閉鎖され、この大聖堂も1938年に閉鎖された。第二次大戦中は取り壊しの危機にさらされ、戦後は倉庫、ついで宿舎として転用された。ソ連末期に信徒へ返還され、大規模な修復を経て1990年代末に再び聖別され、カトリック聖堂としての機能を取り戻した。
建築的特徴
聖堂は赤煉瓦をそのまま見せ、外壁に化粧を施さない。五区画からなる主身廊は65メートルに及び、交差部の上には高さ30メートルの八角形の採光塔が立つ。バラ窓や尖頭アーチ、フライング・バットレス、小尖塔といったゴシックの語彙を、近代の量産煉瓦という新しい素材で組み立てている点に特徴がある。正面(ファサード)はロンドンのウェストミンスター寺院を、塔はミラノ大聖堂をゆるやかに範としたとされる。側廊はそれぞれ五つの控え壁で支えられ、左右あわせて十の控えが十戒を象徴するなど、細部に意味を込めた意匠が見られる。
意義・現在
無原罪の聖母マリア大聖堂は、正教会が優勢なロシアにあって、少数派であるカトリックの存在を可視化した記念碑的な建築である。ネオ・ゴシックという西欧由来の様式を、20世紀初頭のモスクワに本格的な規模で実現した例は珍しい。閉鎖・転用・再生という、20世紀ロシアの宗教建築がたどった運命を凝縮した歴史をもつ点でも意義深い。現在はロシア語・ポーランド語・英語・フランス語によるミサが行われる現役の大聖堂であり、パイプオルガンを用いた演奏会の場としても知られる。