ジャーマー・マスジッド Jama Masjid, Delhi
デリー旧市街に建つインド最大級の金曜モスク。ムガル皇帝シャー・ジャハーンが新首都シャージャハーナーバードの高所に1650年から6年をかけて築かせた、赤砂岩と白大理石の対比を主題とする帝室のモスクである。
§1 — 概要概要
ジャーマー・マスジッドは、インド・デリーの旧市街に建つ金曜モスクである。正式名称はマスジド・イ・ジャハーン・ヌマー(Masjid-i Jahān-Numā、「世界を映すモスク」の意)で、ムガル皇帝シャー・ジャハーンが自らの新首都シャージャハーナーバードの高所に築かせた。一辺約99メートルの中庭(サハン)は約2万5千人を収容し、建立当時はインド亜大陸で最大の規模を誇った。赤砂岩を主材としつつ白大理石を大胆に併用する構成は、ムガル建築が最も充実した時期の到達点を示している。
歴史
建設は1650年に始まり、1656年に完成した。工事には約5千人が動員され、その顔ぶれにはインド人のほかアラブ人・ペルシア人・トルコ人・ヨーロッパ人が含まれていたという。監督にあたったのは宰相サアドゥッラー・ハーンと家政長官ファーズィル・ハーンである。1656年7月23日に落成し、ブハラから招かれたサイイド・アブドゥル・ガフール・シャー・ブハーリーが初代の導師(シャーヒー・イマーム)に就いた。導師職はその子孫に受け継がれ、今日まで続いている。
シャー・ジャハーンの治世末期の事業であり、以後は帝室のモスクとして機能した。金曜礼拝で皇帝の名を冠したフトバ(説教)が読み上げられることは統治の正統性を宣言する行為でもあり、モスクは主権の可視的な象徴となった。1757年には、デリーに招かれたアフガンの征服者アフマド・シャー・ドゥッラーニーの名でフトバが読まれている。
1803年、英国東インド会社がシャージャハーナーバードを掌握した。1857年のインド大反乱の後、当局はモスクを接収して宗教的使用を禁じ、シク教徒とヨーロッパ人の兵士の兵舎として用いた。取り壊しも検討されたが、ムスリム住民の反発が強まるなか、1862年に宗教目的への限定と警察の常駐を条件として返還された。以後の修理はラームプルのナワーブ(1886年)やハイデラバードのニザーム(1926年、1948年)といった地方君主の寄進によっている。1947年10月、印パ分離のさなかにアブル・カラーム・アーザードがここの説教壇からデリーのムスリムに向けて演説し、インドに留まるよう訴えた。
建築的特徴
モスクは周囲の市街より約10メートル高い基壇の上に載り、西のキブラ(メッカの方角)に向く。三方に砂岩造の門が開く。最も格式の高い東門は3層で、かつては皇帝とその一族だけが用いた。北門と南門は2層で、市民の入口であった。各門には三方から石段が取り付き、白線で礼拝時の立ち位置が示されている。北門の厨子には、鹿革に記されたクルアーンや預言者の履物と伝えられる遺品が納められている。
正方形の中庭は赤砂岩で舗装され、中央に17メートル×15メートルの大理石の沐浴池を置く。四周を開放的なアーケードが巡り、その上、中庭の四隅にチャトリが立つ。
礼拝室は間口約61メートル、奥行約27メートル。正面中央にピシュタークを据え、その左右に5つずつ小ぶりな多弁アーチを並べる。屋上には金の頂華を戴く大理石のドームが3基載る。内部は7つの梁間に分かれ、西の壁にはそれに対応して7つのミフラーブが穿たれる。中央のミフラーブは大理石で覆われて最も入念に飾られ、その右手に大理石のミンバルが立つ。床は白と黒の大理石で礼拝用の敷物の割付が描かれ、一人分の場所が線で示される。
ドームの左右、中庭の北東と南東の隅には高さ約41メートルのミナレットが立つ。赤砂岩に白大理石の縦縞を入れた塔身は130段の階段をもち、三か所に展望のための回廊がある。壁面の各所にはアラビア語とペルシア語の書が刻まれ、内容は宗教的な章句から皇帝を讃える頌詩まで幅広い。
意義・現在
シャー・ジャハーン自身は、このモスクをファテープル・シークリーの金曜モスクに倣ったものと述べている。実際、東門や中庭の構成には先行例の影響が濃い。一方で白大理石の使用量は格段に増しており、赤と白の対比を主題として扱う点にこの建物の独自性がある。同じ施主が白大理石一色で建てたタージ・マハルが閉じた廟であるのに対し、ジャーマー・マスジッドは都市に開かれた集団礼拝の場として、素材の対比と規模で威容を示した。
隣接して置かれていた学院(マドラサ)や施療院は1857年の動乱で失われている。モスク自体は現在も日々の礼拝に使われる現役の建物であり、インド考古局の「国家重要記念物」に指定されている。チャーンドニー・チョウクの商業地区とラール・キラー(紅い城)に挟まれた旧市街の結節点にあり、独立運動期以来の、政治的な集会の場としての性格も保ち続けている。
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