ケンジントン宮殿 Kensington Palace
ロンドン西部、ケンジントン・ガーデンズに隣接する王室宮殿。1689年、ウィリアム3世とメアリー2世がヤコビアン様式の邸宅を購入し、クリストファー・レンに改築させて宮殿とした。英国バロックの王宮であり、ヴィクトリア女王の生誕地として、また近年はウェールズ公夫妻の居所として知られる。
§1 — 概要概要
ケンジントン宮殿は、ロンドン西部のケンジントン・ガーデンズに隣接して建つ王室宮殿である。もとは17世紀初頭の邸宅にすぎなかったが、1689年に国王ウィリアム3世と女王メアリー2世がこれを購入し、当時の王室造営局総監クリストファー・レンの手で宮殿へと改められた。以後およそ70年にわたり歴代君主に好まれた居所であり、英国バロックを代表する王宮のひとつに数えられる。
歴史
建物の起源は、1605年ごろにサー・ジョージ・コッピンがケンジントン村に建てたヤコビアン様式の二階建て邸宅にさかのぼる。のちにノッティンガム伯フィンチ家の所有となり、「ノッティンガム・ハウス」と呼ばれた。1688年の名誉革命でイングランド王位に就いたウィリアム3世は、喘息を患い、霧と湿気の多いホワイトホール宮殿を嫌って郊外の住まいを求め、1689年にこの邸宅を2万ポンドで買い取った。レンは既存の構造を活かしつつ四隅に三階建ての棟を加え、宮廷は同年のクリスマス前に移り住んだ。レンの弟子ニコラス・ホークスムアは、南側のファサードとキングズ・ギャラリーを手がけている。アン女王の時代には増築が完成し、ホークスムアの設計したオランジェリーが庭園に加えられた。さらにジョージ1世のもとでは、画家・建築家ウィリアム・ケントが内部を一新した。
建築的特徴
ケンジントン宮殿は、王宮でありながら誇示を抑えた簡素さを特徴とする。レンは赤煉瓦を基調とし、左右対称と採光を重んじた穏やかな構成をとった。同時代のヴェルサイユのような壮麗さではなく、病弱な国王のための「住みやすさ」が優先された点に、英国バロックの実際的な性格がよく表れている。庭園に建つオランジェリー(1704–05年)は、柑橘類を冬越しさせる温室でありながら、グリンリング・ギボンズの彫刻で飾られ、社交の場としても用いられた。内部の見どころは、ウィリアム・ケントによるキングズ・ステアケースのトロンプ・ルイユ(だまし絵)で、四十五人もの人物が壁面に描かれている。ケントはのちに英国にパッラーディオ様式を広め、レンらの華やかなバロックから古典的な明快さへと趣味を転換させていく。
意義・現在
ケンジントン宮殿は、宮廷の華やかな儀礼と、王室の私的な生活との双方を映してきた建築である。ヴィクトリア女王はここで生まれ育ち、20世紀末にはダイアナ妃の居所として、その死後は国民的な追悼の舞台ともなった。現在はヒストリック・ロイヤル・パレスにより一部が一般に公開される一方、ウェールズ公ウィリアムとキャサリン妃をはじめとする王族の住まいでもある。グレードI指定建造物として保護されている。