ラーレリ・モスク(Laleli Camii)は、イスタンブールのファーティフ地区に立つ18世紀のモスクである。スルタン・ムスタファ3世が発願し、1760年から1764年にかけて建てられた、オスマン・バロックを代表する帝室モスクである。
§1 — 概要概要
ラーレリ・モスク(Laleli Camii)は、イスタンブール旧市街のファーティフ地区に立つモスクである。オスマン帝国のスルタン、ムスタファ3世(Mustafa III)が発願し、1760年から1764年にかけて建てられた帝室モスクで、ヨーロッパのバロックの意匠を取り入れた18世紀オスマン建築、いわゆる「オスマン・バロック」を代表する建築として知られる。モスクは学校や墓廟、商業施設を含むキュッリイェ(複合宗教施設)の中核をなす。
歴史
建設は1760年4月に始まり、1764年3月に完成した。設計者を確実に伝える記録は残らないが、当時の宮廷主席建築家であったメフメト・タヒル・アー(Mehmed Tahir Ağa)の手になるものと考えられている。着工時の主席建築家はハジ・アフメト・アーであり、造営の途中で職が引き継がれたとみられる。1783年の火災で被害を受けたが、まもなく修復された。発願者ムスタファ3世の墓廟も複合施設内に設けられ、スルタン自身がここに葬られている。キュッリイェには、収益を生んで施設を維持するための商業空間として、キャラバンサライに類する隊商宿や貸店舗が地下に組み込まれ、宗教施設の運営を経済的に支えた。
建築的特徴
平面は、エディルネのセリミエ・モスクに範をとった構成をもつ。中央の大ドームを八本の柱で支え、四隅に半ドームを配することで、内部に広がりのある一体の祈りの空間をつくり出している。古典オスマン建築が確立した中央ドーム形式を踏まえつつ、壁面や開口部、列柱には曲線や渦巻きといったバロック的な装飾がほどこされ、それまでの幾何学的に厳格な意匠とは異なるやわらかな表情を見せる。柱頭やアーチの縁、入口まわりには大理石の繊細な彫りが施され、内部にはムカルナス(鍾乳石状装飾)も用いられている。基壇を高く設け、その下に商業空間を抱き込む構成も特徴的である。
意義・現在
ラーレリ・モスクは、18世紀のオスマン帝国が西欧の建築意匠を積極的に消化していった時代を示す代表例である。同じ時期のヌールオスマニイェ・モスクとともに、オスマン・バロックの成熟を伝える作品として建築史に位置づけられる。今日も現役の礼拝施設として用いられ、周囲のラーレリ地区は商業の盛んな一画として知られる。装飾の華やかさと、伝統的なドーム空間の均衡を保った構成は、古典期から近代へと移りゆくオスマン建築の転換を今に伝えている。