セント・パンクラス駅 St Pancras railway station
ロンドン中心部、ユーストン・ロードに面する鉄道ターミナル。1868年に開業したバーロー設計の単一スパン大屋根と、スコットによるゴシック・リヴァイヴァルの旧ミッドランド・グランド・ホテルが一体をなす、ヴィクトリア朝鉄道建築の到達点である。
§1 — 概要概要
セント・パンクラス駅は、ロンドン中心部のカムデンに位置する鉄道ターミナルである。ミッドランド鉄道がイングランド中部・北部の路線網をロンドンへ結ぶために建設し、1868年10月に開業した。技師の手による巨大な列車庫と、その正面に建つ豪奢なゴシック様式のホテルが一体をなし、ヴィクトリア朝の鉄道建築を象徴する存在として知られる。
歴史
駅本体は土木技師ウィリアム・ヘンリー・バーローの設計により、1860年代半ばに着工した。1868年の開業時、その大屋根は当時世界最大の無柱空間であった。開業後、駅の正面を飾るためミッドランド・グランド・ホテルが計画され、設計競技を制したジョージ・ギルバート・スコットが、1868年から1876年にかけて赤煉瓦のゴシック・リヴァイヴァルによる壮麗な建物を完成させた。両大戦で爆撃を受け、1960年代には解体の危機に瀕したが、詩人ジョン・ベッチェマンらの保存運動によって取り壊しを免れ、第一級指定建築物となった。
建築的特徴
最大の見どころは、バーローが設計した単一スパンの錬鉄製大屋根である。中間の柱を一切もたず、幅およそ73メートル・高さおよそ30メートルの半円アーチが、ホーム全体を一息に覆う。その横推力は、地下の貯蔵庫を支える鋳鉄柱の列が梁を介して受け止めている。一方、スコットのホテル棟は、尖塔・破風・連続アーチを駆使した中世趣味の外観をもち、機能本位の鉄の構造体と装飾的な石造建築という、対照的な二つの建築言語が同居している。
意義・現在
セント・パンクラス駅は、技術と装飾が拮抗したヴィクトリア朝建築の縮図である。20世紀後半の解体計画とそれに抗した保存運動は、産業時代の建築を文化遺産として見直す転機ともなった。2007年に大規模な改修を経て、ユーロスターの発着するセント・パンクラス・インターナショナルとして再生し、ホテル棟も高級ホテルとして甦った。鉄道の機能とヴィクトリア朝の意匠が、今日も分かちがたく併存している。