ポーランド、クラクフの中央市場広場に建つ織物取引会館。14世紀のゴシックの市場に始まり、1555年の火災後にルネサンス様式で再建された、中欧を代表するルネサンス建築の一つである。
§1 — 概要概要
織物会館(Sukiennice)は、ポーランド南部の古都クラクフ、旧市街の中央市場広場の中心に建つ、織物取引のための長大な会館である。中世以来の国際交易の舞台であり、1555年の火災を機にルネサンス様式へ生まれ変わった姿から、中欧におけるルネサンス建築の代表例の一つに数えられる。広場の中軸を占める、クラクフでもっとも知られた記念碑的建造物である。
歴史
会館の起源は14世紀、クラクフが交易都市として栄えた時代にさかのぼる。当初は石造ゴシックの細長い市場建築で、東方からの香辛料・絹・革と、ポーランド産の織物・鉛・岩塩とがここで取引された。1555年の大火で初期のゴシック建築は失われ、続く再建によって現在のルネサンスの装いが与えられた。屋根を覆う樽型ヴォールトと、建物を一巡する装飾的なアティカ(軒上の飾り壁)は、イタリア出身のサンティ・グッチの構想によるものである。さらに建物の両端には、ジャンマリア・モスカ(パドヴァーノ)の設計によるロッジアが加えられた。1875年から78年にかけては、トマシュ・プリリンスキの設計で大規模な改修が行われ、長辺にネオ・ゴシックのアーケードが付された。
建築的特徴
平面は幅約18メートル・長さ約108メートルにおよぶ細長い一棟で、中央を貫く通路の両側に商いの場が並ぶ。外観でもっとも目を引くのは、屋根の上にめぐらされたアティカである。浅い盲アーチが連なり、その間にはマスカロン(人面の装飾)がはめ込まれて、重い量塊に華やかな輪郭を与えている。両端のアーチを開いたロッジアが、長大な建物を広場へとやわらかく開いている。ゴシックの骨格の上にルネサンスの装飾をまとった、様式の重層が読み取れる建築である。
意義・現在
織物会館は、ヨーロッパ各地に存在した中世の織物取引所のなかでも、今日まで現役で使われ続ける稀有な一例である。1階には今も土産物の市が立ち、2階はポーランド国立美術館の分館として19世紀ポーランド絵画・彫刻の常設展示にあてられている。会館を中心とするクラクフ旧市街は、1978年にユネスコ世界遺産に登録された。商業・文化・記念碑という複数の役割を一身に担い続ける、生きた歴史的建造物である。