ガジ・フスレヴ=ベグ・モスク Gazi Husrev-beg Mosque
サラエヴォの旧市街バシュチャルシヤに建つ、ボスニア・ヘルツェゴビナ最大の歴史的モスク。1531年、オスマン帝国のボスニア総督ガジ・フスレヴ=ベグが寄進した複合施設の中心として完成した。古典オスマン様式の初期を代表する建築である。
§1 — 概要概要
ガジ・フスレヴ=ベグ・モスクは、ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエヴォの旧市街バシュチャルシヤに建つモスクである。1531年、オスマン帝国のボスニア総督(サンジャク・ベイ)であったガジ・フスレヴ=ベグの寄進によって完成した。彼が遺した広大なキュッリイェ(モスクを核とするイスラム複合施設)の中心をなし、メドレセ(神学校)や図書館、隊商宿、公衆浴場などとともに、近世サラエヴォの都市生活を支える基盤となった。ボスニア・ヘルツェゴビナに現存する歴史的モスクとしては最大規模を誇る。
歴史
建設は1530年に始まり、翌1531年に竣工した。設計者については確実な記録が残らないが、当時オスマン宮廷の主席建築家を務めたアジェム・エシル・アリの手によるとする説が最も有力とされる。タブリーズ出身のペルシア人であった彼は、後に古典オスマン建築を大成するミマール・スィナンの先任にあたる。19世紀末の1898年には、世界のモスクとして初めて電灯が灯されたことでも知られる。1990年代のボスニア紛争とサラエヴォ包囲のさなかには砲撃で損傷を受けたが、戦後に修復され、2004年にボスニア・ヘルツェゴビナの国定記念物に指定された。
建築
モスクは古典オスマン様式の初期を代表する。中央の礼拝空間は直径約13メートル、高さ約26メートルの単一の大ドームで覆われ、その荷重はペンデンティヴを介して下部の壁体へと導かれる。正面には三連の小ドームを戴く前室(ポーチ)が付き、右脇には高さ約45メートルのミナレットがそびえる。内部では、メッカの方角を示すミフラーブと説教壇であるミンバルが石材で精緻に刻まれ、ドームの移行部には鍾乳石状装飾のムカルナスが、壁面には植物文様のアラベスクが施される。
現在
モスクは今日も現役の礼拝施設として機能し続けると同時に、サラエヴォを象徴する歴史的建造物として多くの来訪者を迎えている。隣接する建物群とあわせてガジ・フスレヴ=ベグの寄進複合体は今なお都市の核として息づいており、オスマン期のサラエヴォが育んだ建築文化を今に伝えている。