聖イグナツィオ教会 Sant'Ignazio Church
ローマ中心部、パンテオン近くに立つイエズス会のバロック教会。1626年に着工し1650年に開堂した。資金難でドームが建てられず、修道士アンドレア・ポッツォが天井に描いた「だまし絵」のドームと壮大な天井画で名高い。
§1 — 概要概要
聖イグナツィオ教会(イタリア語: Chiesa di Sant'Ignazio di Loyola in Campo Marzio)は、ローマの歴史地区、パンテオンからほど近いカンポ・マルツィオ地区に立つカトリックの教会である。イエズス会の創立者イグナティウス・デ・ロヨラに捧げられ、隣接するローマ学院(コレジオ・ロマーノ、のちの教皇庁立グレゴリアン大学)の聖堂として建てられた。17世紀ローマの対抗宗教改革を代表する大規模な説教教会の一つであり、内部を覆うクアドラトゥーラ(だまし絵による建築描写)と、実在しないドームを平天井に描いたトロンプ・ルイユで世界的に知られる。
歴史
1622年にロヨラが列聖されると、教皇グレゴリウス15世の甥ルドヴィーコ・ルドヴィージ枢機卿が新教会の建設を発願し、10万スクードを投じた。設計は競合の末、ローマ学院の数学者でイエズス会士のオラツィオ・グラッシの案が採用され、1626年8月2日に礎石が据えられた。ルドヴィージ家の後ろ盾を失ったのち資金は途絶えがちとなり、工事は難航した。教会は1650年の聖年に合わせて礼拝に供されたが、内部は未完のままであった。正式な献堂はさらに遅れて1722年に挙行されている。当初計画されていた交差部のドームは資金難で建てられず、この欠落こそが、のちに名高い天井装飾を生む契機となった。
建築的特徴
平面はイエズス会の母教会ジェズ教会に倣い、側礼拝堂を連ねた広い身廊と短い翼廊・交差部からなる、説教を重視する対抗宗教改革型の聖堂である。最大の見どころは、修道士で画家・数学者でもあったアンドレア・ポッツォが手がけた装飾である。1685年、ポッツォは建てられなかった交差部のドームの代わりに、平らな天井へカンヴァスに円蓋を描き、あたかも本物のドームのように見せた。身廊の床に置かれた円盤の上に立つと幻影は完璧に立ち上がり、別の位置からは破綻して平面が露わになる。1691年から1694年にかけては身廊全体を覆う大天井画《聖イグナティウスの栄光》を描き、線遠近法と光の操作によって、堂内を天へ開かれた理想の空間へと変えた。
意義・現在
聖イグナツィオ教会は、バロックの劇的空間が絵画と建築の境界を溶かす地点を示す、決定的な作例である。ポッツォの天井画は世界最大級の規模をもち、その遠近法理論は彼自身の著作『絵画と建築における遠近法』を通じて、ヨーロッパ各地のイエズス会聖堂へ伝播した。教会は現在も信仰の場であると同時に、ローマでも屈指の観覧地となっている。1980年に登録されたユネスコ世界文化遺産「ローマ歴史地区」の範囲に含まれる。
関連する建築
Related※ イタリアでは文化財の画像の商用利用に文化財法(コーディチェ)上の制約がある場合がある。利用時は出典・ライセンスを確認のこと。