イスラーム建築
ムーア建築は、8世紀から15世紀にかけて、イベリア半島(アル・アンダルス)と北アフリカのマグリブ地方に展開したイスラーム建築の様式である。後ウマイヤ朝のコルドバを起点に、ナスル朝のグラナダに至るまで、地中海西方の独自の造形言語を育てた。ダマスカスやバグダードの東方イスラーム建築とは異なる、西方ならではの軽やかで装飾的な性格をもつ。
最大の特徴は、赤と白の楔石を交互に積んだ二色の馬蹄アーチである。コルドバの大モスクでは、短い再利用円柱の上にこの馬蹄アーチを二段に重ね、軽快で律動的な列柱空間をつくり出した。さらに葉状(多弁)アーチを交差させた精緻なアーチ網、鍾乳石状のムカルナスによる天井、植物文と幾何学文と書を融合させたアラベスクの表面装飾、色鮮やかなタイル(アスレホ)の腰壁などが加わる。偶像表現を避けるイスラームの規範のもと、装飾は具象を離れ、抽象的な反復と無限の感覚へ向かった。建物はしばしば、泉と植栽を備えた中庭(サフン)や水の流れと一体に構想され、楽園のイメージを地上に写し取ろうとした。
代表作は、コルドバの大モスク(メスキータ)とグラナダのアルハンブラ宮殿である。前者は様式の祖型を、後者はその爛熟と繊細化を示す。マグリブではセビーリャのヒラルダなど、装飾的な尖塔(ミナレット)にも独自の展開を見せた。ムーア建築は、キリスト教側に受け継がれたムデハル様式を介してスペイン建築に深く根を下ろし、のちのネオ・ムーア様式として19世紀以降の世界各地にも影響を及ぼした。