メスキータ Mosque-Cathedral of Cordoba
スペイン南部コルドバに建つ、西方イスラーム建築の最高傑作の一つ。786年に後ウマイヤ朝が着工した大モスクで、赤白二色の馬蹄アーチが林立する。13世紀にキリスト教の大聖堂へ転用され、その中心部に16世紀のルネサンス聖堂が挿入された。世界遺産。
§1 — 概要概要
メスキータ(Mezquita-Catedral de Córdoba)は、スペイン南部アンダルシアの都市コルドバに建つ大モスクであり、現在はカトリックの大聖堂を兼ねている。8世紀の後ウマイヤ朝に起源をもち、赤と白の楔石を交互に積んだ馬蹄アーチが林立する礼拝空間は、西方イスラームのムーア建築を代表する傑作の一つに数えられる。レコンキスタののちキリスト教の聖堂へ転用され、モスクの只中にルネサンスの大聖堂が挿入された、二つの宗教と様式が同居する稀有な建造物である。
歴史
この地にはローマ期の建物と、のちに西ゴート期のサン・ビセンテ聖堂があったと伝えられる。785〜786年、アル・アンダルスを統べた後ウマイヤ朝の君主アブド・アッラフマーン1世が、その場所に大モスクの造営を始めた。礼拝室は人口の増加に応じてアブド・アッラフマーン2世、アル・ハカム2世、宰相アル・マンスールの代まで数度にわたり南へ拡張され、10世紀末にはほぼ現在の規模に達した。12世紀にはムワッヒド朝のもとで建築家アフマド・イブン・バーソが市内の建造物の修復を統括し、この大モスクもその対象に含まれたとみられる。
1236年、カスティーリャ王フェルナンド3世がコルドバを奪回すると、モスクは聖母に捧げる大聖堂として聖別された。当初の改変は小規模だったが、1523年、礼拝室の中心部を取り壊して大聖堂を挿入する工事が始まる。着工を指揮したエルナン・ルイス1世は完成を見ずに没し、工事は息子の2世、孫の3世、そしてフアン・デ・オチョアへと引き継がれ、交差部の楕円形ドーム(1599〜1607年)をもって二世紀近い造営が完結した。旧尖塔(ミナレット)も1593年以降にルネサンス様式の鐘楼へと改められた。
建築的特徴
メスキータの礼拝室を性格づけるのは、ローマや西ゴートの建物から集めた短い再利用円柱と、その上に架かる独特の二段アーチである。短い円柱で高い天井を支えるため、下段に馬蹄アーチ、上段に半円アーチを重ね、赤い煉瓦と白い石材を交互に用いた楔石で縞模様を描く。この赤白二色のアーチが森のように林立する光景は、イスラーム建築を象徴するイメージとなった。礼拝の方向を示すミフラーブは精緻なモザイクとムカルナスで飾られ、植物文や幾何学文、書を融合させたアラベスクが壁面を覆う。一方、16世紀に挿入された大聖堂部分は、ゴシックのリブ・ヴォールトとルネサンス・マニエリスムのドームをもち、モスクの水平の広がりに対して垂直の上昇感を対置する。異質な二つの空間が一棟のうちに共存している点に、この建物の最大の特異さがある。
意義・現在
メスキータは、イスラーム西方世界が到達した建築的洗練を今に伝えると同時に、中世イベリアにおける宗教と文化の重層を体現する建造物である。モスクを壊さずにその内部へ大聖堂を挿入したことで、結果として八世紀以上にわたる様式の変遷が一棟に凝縮されることになった。1984年にユネスコの世界遺産に登録され(のちにコルドバ歴史地区へ拡張)、現在もカトリックの大聖堂として礼拝に用いられている。近年はその呼称や宗教的帰属をめぐる議論も生じているが、赤白のアーチが森のように連なる礼拝室は、スペイン・イスラーム建築の到達点として、建築史の上でも特別な位置を占め続けている。