バレンシア・ゴシック様式
バレンシア・ゴシック(Gòtic valencià)は、13世紀のレコンキスタ後にバレンシア王国で発展した、ゴシック建築の地域的様式である。14世紀から15世紀にかけて、地中海交易で繁栄したバレンシアの経済力を背景に成熟し、宗教建築のみならず取引所や市門といった世俗建築にも高い達成を残した点に大きな特徴がある。
形態の面では、フランス北方の垂直性を強調するゴシックとは異なり、地中海ゴシックに共通する水平方向への広がりと、簡潔で力強い壁面の構成を好む。内部では、柱頭を省いて床から天井のリブへと連続する柱や、螺旋を描くねじり柱、星形やネット状に展開するリブ・ヴォールトが用いられ、構造の力の流れをそのまま意匠とする傾向が強い。外観には塔や銃眼など城郭的な要素が取り入れられ、都市の中で建物の権威を可視化した。
代表作には、世俗ゴシックの傑作とされるラ・ロンハ・デ・ラ・セダ(絹の取引所)や、バレンシア大聖堂の諸部分、市門のトーレス・デ・セラーノスなどがある。これらの多くを手がけたペーラ・コンプテやフランセスク・バルドマールらの石工が、この様式を技術的にも美的にも大成させた。バレンシア・ゴシックは、北方ゴシックの構造原理を地中海の風土と商業都市の現実に翻案したものであり、後のスペイン・ゴシックから初期ルネサンスへの移行を準備する役割も担った。