エローラ石窟群 Ellora Caves
インド西部、デカン高原の玄武岩の崖に穿たれた石窟寺院群。6世紀から10世紀にかけて仏教・ヒンドゥー教・ジャイナ教の三宗教の窟が隣り合って刻まれ、第16窟カイラーサナータ寺院は岩山を上から掘り下げた世界最大級の一体彫成建築である。
§1 — 概要概要
エローラ石窟群は、インド・マハーラーシュトラ州のシャラナドリ丘陵にある石窟寺院群である。西に面した玄武岩の断崖に沿って百を超える窟が穿たれ、うち34窟が公開されている。南から順に仏教窟12(第1〜12窟)、ヒンドゥー教窟17(第13〜29窟)、ジャイナ教窟5(第30〜34窟)が連なる。異なる三つの宗教の聖域が一つの崖面に隣り合う例はほかになく、デカン地方の宗教史がそのまま岩の断面として残されている。1983年に世界遺産に登録された。
歴史
造営は6世紀から10世紀にかけて断続的に進んだ。研究者の多くは、仏教窟の時期をおよそ600年から730年、これに続くヒンドゥー教窟とジャイナ教窟の時期をおよそ730年から950年と見る。初期の窟の一部はカラチュリ朝やチャールキヤ朝の庇護によるとされ、後期のヒンドゥー教窟と初期のジャイナ教窟はラーシュトラクータ朝、最後のジャイナ教窟はヤーダヴァ朝の時代に属する。造営費は王侯だけでなく、デカン高原を東西に横切る交易路を行き来した商人からも供された。エローラが辺境の隠棲地ではなく、交易の要衝に置かれた拠点であったことを示している。
建築的特徴
石窟は上から下へ、外から内へと掘り進められる。足場も型枠も要らない代わりに、削りすぎれば取り返しがつかない。仏教窟の大半は僧が暮らすヴィハーラで、居室や厨房を備えた多層の構成をとる。第10窟ヴィシュヴァカルマ窟は唯一のチャイティヤ窟であり、奥を半円形に納めた平面の突き当たりにストゥーパを据え、その正面に高さ約4.5メートルの説法印の仏坐像を刻む。天井には木造の垂木を模したリブが彫り出されている。石が、失われた木造建築の記憶を写し取っている。
頂点は第16窟カイラーサナータ寺院である。8世紀後半、ラーシュトラクータ朝の王クリシュナ1世の発願により、シヴァ神の住むカイラス山を地上に現すものとして造られた。まず上方から溝を掘り下げて岩塊を三方から切り離し、残された岩の内部から、南インド型の塔状上部構造を戴く本殿、ナンディ堂、門、周囲を巡る回廊を一体で彫り出している。積み上げてつくる建築ではなく、引き算だけで成り立つ一体彫成の建築である。本殿のガルバグリハにはリンガが据えられ、基壇には堂を支える象の列が刻まれる。
意義・現在
エローラは、インドの石窟造営が最後に到達した地点である。アジャンターに始まる伝統はここで、閉じた洞窟から、青空の下に立つ独立した堂宇の形式へと転回した。カイラーサナータ寺院は石窟の名を残しながら、実質的には岩から彫り出された寺院建築であり、この転回の終着点にあたる。以後、これに匹敵する規模の石窟が試みられることはなく、寺院造営は石を積む構造建築へ移っていく。現在はインド考古局の管理下にあり、宗教施設としての機能は失われているが、構造そのものは大きな損壊を受けずに残されている。