EST. 2026 — Editorial Archive of Notable Architecture
ハンプトン・コート宮殿
© Ricardalovesmonuments / CC BY-SA 4.0
FIG. 01 — Q205666

ハンプトン・コート宮殿 Hampton Court Palace

Hampton Court Palace

ロンドン南西郊、テムズ川沿いの旧王宮。1515年に枢機卿ウルジーが着工したテューダー朝の宮殿をヘンリー8世が拡張し、17世紀末にはクリストファー・レンがバロック様式の翼を加えた。二つの時代の建築が赤煉瓦で結ばれて並び立つ。

FIG. 02 — Location51.4034° N 0.3375° W
イギリス グレーター・ロンドン ロンドン
§1 — 概要

概要

ハンプトン・コート宮殿(Hampton Court Palace)は、ロンドン中心部から南西へ約19キロ、テムズ川の上流に臨む旧王宮である。16世紀前半のテューダー朝の宮殿と、17世紀末から18世紀初めに加えられたバロックの翼とが一つの敷地に並ぶ。赤煉瓦という共通の素材をもちながら、まったく性格の異なる二つの時代の建築を見せる点に、この宮殿の特質がある。

歴史

敷地はもともと聖ヨハネ騎士団の所領で、15世紀末にはヘンリー7世の侍従長ジャイルズ・ドーベニーが邸宅を営んでいた。1514年に借地権を得たヘンリー8世の重臣、枢機卿トマス・ウルジーは、翌1515年から大規模な建設に着手し、客用の居室を連ねた第一の中庭と、王族を迎える居室を備えた第二の中庭からなる邸宅を築いた。1520年代の末に王の寵を失ったウルジーは宮殿を王に献じ、以後ヘンリー8世が厨房を大きく拡げ、1532年から1535年にかけて大広間(グレート・ホール)を建てた。1540年には第二の中庭の門楼に天文時計が据えられている。

1689年に即位したウィリアム3世とメアリー2世は、ヴェルサイユに比肩する宮殿への建て替えを企て、王室造営局長官クリストファー・レンに設計を命じた。当初は大広間を除いてテューダーの宮殿を取り壊す計画であったが、1694年末のメアリーの死で工事は止まり、実現したのは南面と東面を占める王と王妃の新しい居室にとどまった。1690年代末に工事が再開されると、造営局の会計監査官ウィリアム・タルマンが安価な見積もりで内装を請け負い、1702年までに王の居室を仕上げた。1730年代にはジョージ2世のもとでウィリアム・ケントが王妃の階段やカンバーランド公の居室を手がけたが、この王を最後に、君主がここに住むことはなくなった。1838年、ヴィクトリア女王のもとで一般に公開され、1986年の火災で王の居室が損傷したのちも、修復を経て公開が続いている。

建築的特徴

テューダーの部分は、赤煉瓦の壁に石の窓枠と装飾的な煙突を組み合わせた、垂直式ゴシックの流れをくむ造りである。ただしウルジーの邸宅には、左右対称の平面や、主要室を上階に置くピアノ・ノービレの構成など、同時代イタリアの枢機卿の宮殿にならおうとする意図が読み取れる。中庭の煉瓦壁には、イタリア人彫刻家ジョヴァンニ・ダ・マイアーノによるローマ皇帝の胸像を収めたテラコッタのトンドがはめ込まれ、英国に届いたばかりのルネサンス装飾を伝える。ヘンリー8世の大広間は、彫刻を施したハンマービームの木造小屋組を架け、英国王室が建てた最後の中世的な大広間とされる。

レンの翼は、噴水の中庭(ファウンテン・コート)を囲み、南面と東面に長いファサードを連ねる。桃色がかった煉瓦に白いポートランド・ストーンの隅石や窓枠、水平の帯を配し、同じ窓割りを繰り返す立面に色彩の対比を与えた。上層の中二階に並ぶ円窓も、この立面の特色である。内部では、アントニオ・ヴェリオの天井画、グリンリング・ギボンズの木彫、ジャン・ティジューの鉄細工が王の大階段と居室を飾る。東面の前には、放射状にのびる並木道と、17世紀に掘られた長い運河を軸とする庭園が広がる。

意義・現在

ハンプトン・コートは、ヘンリー8世の宮廷の姿を今日に伝える貴重な遺構であると同時に、フランスの宮廷建築に対抗しようとした英国バロックの試みを示す。計画が半ばで途切れた結果、二つの時代が同じ素材で結ばれながら並存する姿が生まれた。現在はイングランドの第一級指定建造物で、慈善団体ヒストリック・ロイヤル・パレシズが管理し、王室コレクションの美術品や、生け垣の迷路で知られる庭園とともに公開されている。

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LAST EDIT — 2026.10.21
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