イングランド・バロック
イングランド・バロック(English Baroque)は、ヨーロッパ大陸のバロック建築に呼応してイギリスで展開した建築様式である。1666年のロンドン大火を一つの起点とし、おおむね1720年ごろまで続いた。
大陸のバロックが運動感と劇性を前面に出したのに対し、イングランド・バロックはより端正で古典主義的な性格を帯びる。これは、17世紀前半にイニゴ・ジョーンズがもたらしたパッラーディオ風の古典主義が、下地として根づいていたためである。荘重さと抑制、豪壮さと趣味のよさが同居する点に、この様式の独特の味わいがある。
中心となったのは、クリストファー・レンである。ロンドン大火後、彼はセント・ポール大聖堂と五十あまりの市内教会を再建し、この様式を主導した。続く世代では、ニコラス・ホークスムーアが、超大型の柱と厳しい輪郭をもつ記念碑的な教会(クライスト・チャーチ・スピタルフィールズなど)で、力強く独自の表現に到達する。ジョン・ヴァンブラは、ブレナム宮殿やカースル・ハワードといった壮大な邸宅で、彫塑的な量塊と城郭を思わせる構えを見せた。
代表建築には、レンのセント・ポール大聖堂のほか、英国バロック最大の世俗建築とされるブレナム宮殿、カースル・ハワードなどがある。
様式史のうえでは、大陸のバロック建築を母体としつつ、イギリス独自の古典主義と結びついて生まれた。やがて1720年代には、より厳格で規則に則ったパラディオ主義(新パラディオ主義)の台頭によって、その華やかさは退いていった。