インスブルック大聖堂 Innsbruck Cathedral
オーストリア・チロル州インスブルックに建つバロックの大聖堂(聖ヤコブ大聖堂)。ヘルコーマーの設計で1717年に着工し、その甥フィッシャーが完成させた。アザム兄弟による華麗な内部装飾と、クラーナハの聖母画で知られる。
§1 — 概要概要
インスブルック大聖堂(Dom zu St. Jakob、聖ヤコブ大聖堂)は、オーストリア・チロル州の州都インスブルックに建つ18世紀のバロック様式の教会。使徒大ヤコブに捧げられており、ヨハン・ヤーコプ・ヘルコーマーの設計にもとづいて1717年から1724年にかけ、12世紀のロマネスク教会の跡地に建てられた。アザム兄弟による豪華な内部装飾を備え、チロルを代表するバロック建築のひとつに数えられる。
歴史
中世以来この地には聖ヤコブに献じられたロマネスク様式の教区教会があったが、老朽化にともない18世紀初頭に新築が決まった。設計を託されたのは、近郊フュッセンを拠点に活動した建築家ヨハン・ヤーコプ・ヘルコーマーである。1717年に着工したものの、ヘルコーマーは同年に没し、その甥で弟子のヨハン・ゲオルク・フィッシャーが工事を引き継いで1724年に完成させた。内部のフレスコ画とスタッコ装飾は、南ドイツ・バロックを代表するアザム兄弟(コスマス・ダミアンとエギト・クヴィリン)が手がけた。1944年の空襲でヴォールトが崩落するなど甚大な被害を受けたが、1946年から1950年にかけて修復された。1964年、インスブルック教区の設立にともない、教区教会から大聖堂へと昇格している。
建築的特徴
身廊は三つのドーム状ヴォールトで覆われ、内陣の上にはランタンを戴くクーポラが架かる。波打つファサードと二基の塔、そして光に満ちた天井のフレスコと白と金のスタッコが、空間に劇的な躍動感を与えている。装飾と構造が一体となって観る者を包み込む手法は、宮廷文化と対抗宗教改革を背景に発達した南ドイツ・バロックの特質をよく示している。主祭壇の上には、ルーカス・クラーナハ(父)が1530年ごろに描いた聖母画《マリア・ヒルフ(救いの聖母)》が掲げられ、キリスト教世界で最も篤く崇敬される聖母像のひとつとされる。
意義・現在
インスブルック大聖堂は、チロルにおけるバロック芸術の到達点を示す建築であり、クラーナハの聖母画や、北側廊にある大公マクシミリアン3世の天蓋付き墓碑(1620年)といった重要な宝物を伝える。第二次世界大戦の傷を癒やしたのち、1964年からはインスブルック教区の司教座聖堂として、地域の信仰と観光の中心であり続けている。