サンタ・チェチリア・イン・トラステヴェレ教会 Santa Cecilia in Trastevere
ローマのトラステヴェレ地区に建つ古い教会。殉教した聖女チェチリアの家の跡に起こり、9世紀に教皇パスカリス1世が今日の堂を再建した。アプスのモザイクやカヴァリーニの壁画、マデルノの聖女像など、各時代の傑作を伝える。
§1 — 概要概要
サンタ・チェチリア・イン・トラステヴェレ教会(Basilica di Santa Cecilia in Trastevere)は、ローマのテヴェレ川右岸、トラステヴェレ地区に建つカトリックの聖堂である。音楽の守護聖人として知られる初期キリスト教の殉教者、聖チェチリアに捧げられている。その起源は3世紀にまでさかのぼり、9世紀の再建を経て、以後の各時代が残した美術によって、ローマの宗教美術の重層を一身に伝える教会となっている。
歴史
伝承によれば、この地には聖女チェチリアの邸宅があり、3世紀にはその家を転用した集会所(ティトゥルス)が設けられていた。5世紀までには彼女の名を冠する教会として記録される。822年、教皇パスカリス1世は古い聖堂をバシリカの形式で全面的に建て直し、カタコンベに葬られていた聖女の遺骸をこの堂へ移した。今日見る聖堂の骨格は、このパスカリス1世の再建にさかのぼる。12世紀には前庭のポルティコとロマネスクのカンパニーレ(鐘楼)が加えられ、その後も改修を重ねて、堂内には各時代の美術が積み重ねられていった。16世紀以降はベネディクト会の修道女たちがこの聖堂を守り続けている。
建築的特徴
堂内でまず目を引くのは、アプスを飾る9世紀のモザイクである。金地を背に、キリストと諸聖人、そして施主であるパスカリス1世が並ぶ構図は、東方ビザンティンの影響を受けた荘厳な作風を示す。主祭壇の上には、彫刻家アルノルフォ・ディ・カンビオが1293年に手がけたゴシックのチボリウム(天蓋)が立つ。祭壇の下には、1600年に彫刻家ステファノ・マデルノが刻んだ横たわる聖チェチリア像が安置され、殉教の姿を静かに今に伝える。さらに修道女の聖歌隊席には、ピエトロ・カヴァリーニが1289年から93年頃に描いたフレスコ壁画《最後の審判》が残る。ジョットに先立つこの作品は長く失われたと思われていたが、1900年に再発見された。正面のファサードと前庭の入口は、18世紀に建築家フェルディナンド・フーガ(Ferdinando Fuga)が整えたものである。
意義・現在
サンタ・チェチリア・イン・トラステヴェレ教会は、ローマ初期キリスト教の聖堂が、中世からバロックに至る各時代の手を受けながら生き続けてきた稀有な実例である。9世紀のモザイク、13世紀のチボリウムと壁画、17世紀の彫像、18世紀のファサードが一つの空間に共存し、ローマ美術史の縮図をなしている。聖堂の地下では、古代ローマの住宅跡の発掘も見ることができる。現在も教会として礼拝に用いられるとともに、これらの美術を求めて多くの人が訪れる。