エストニア第二の都市タルトゥの市庁舎広場に建つ市庁舎。1775年の大火後の復興として建てられ、初期古典主義にバロックとロココを織り交ぜた淡紅色の建物は、市の象徴として親しまれている。
§1 — 概要概要・位置づけ
タルトゥ市庁舎(Tartu raekoda)は、エストニア第二の都市タルトゥの中心、市庁舎広場(ラエコヤ広場)に建つ市庁舎である。淡い紅色の外壁と時計塔をもつ端正な姿は、18世紀末のバルト地方の都市建築をよく伝え、現在も市政の中枢として用いられるとともに、タルトゥを象徴する建物として広く親しまれている。
歴史
この場所には中世以来いくたびか市庁舎が建てられてきたが、1775年にタルトゥの市街を襲った大火が旧庁舎を含む街区の多くを焼き尽くした。現在の建物は、その復興事業の一環として1782年に礎石が据えられ、1789年に完成した。設計を担ったのは、ドイツのロストックに生まれドレスデンで学んだ棟梁ヨハン・ハインリヒ・バルトロメウス・ヴァルターである。ヴァルターは当時の流行を踏まえ、初期古典主義を基調としつつバロックとロココの要素を巧みに織り交ぜて、復興する都市にふさわしい中心的な公共建築をつくり上げた。
建築的特徴
三層の本体に高い屋根と時計塔をのせた構成は、左右対称の落ち着いた均整を示す。壁面は淡紅色に塗られ、各層を分かつ水平の繰形や、柱を模した付け柱であるピラスターによって秩序づけられている。基壇部には石積みを思わせるルスティカ仕上げが施され、中央入口の上には三角形のペディメントと、市の紋章を収めた渦巻き状の額縁装飾カルトゥーシュが掲げられる。塔には時計とカリヨン(組鐘)が備えられ、定時に旋律を奏でて広場に時を告げる。古典主義の骨格にバロック・ロココの優美をまとわせた、過渡期ならではの折衷的な様式が見どころである。
意義・現在
タルトゥ市庁舎は、大火からの復興という近代都市の再生を体現する建築であり、バルト地方における初期古典主義の代表例のひとつに数えられる。建物の前の広場には、市の名物として知られる「口づけする学生たち」の噴水が置かれ、大学都市タルトゥの活気ある中心をなしている。庁舎は今日も市議会と市長府が入る現役の公共建築でありつづけ、エストニアの文化記念物(建造物)に登録されている。