ゴシック建築
初期イングランド・ゴシック(Early English Gothic)は、12世紀末から13世紀にかけてイングランドで展開したゴシック建築の最初の段階である。19世紀の建築史家トマス・リックマンが、英国ゴシックを初期イングランド・装飾式・垂直式の三期に区分した際の呼称に由来する。
成立は1170年代以降、フランスから尖頭アーチとリブ・ヴォールトの技術が伝わったことに始まる。13世紀を通じて各地の大聖堂・修道院で用いられ、ソールズベリー、ウェルズ、リンカン、イーリーなどに代表作を残した。
形態の特徴は簡素さと垂直性にある。装飾的なトレーサリーをまだ発達させず、細く背の高いランセット窓を単独または複数並べて開口部とする。柱には黒く磨いたパーベック大理石の細い束ね柱をあて、白い石灰岩との対比で軽快さを強調した。荷重は尖頭アーチとリブ・ヴォールトで受け、外部のフライング・バットレスへ逃がす。フランス盛期ゴシックが高さと大ガラス面を競ったのに対し、初期イングランドは過度な高さを求めず、水平線と壁面の量感、内部の落ち着いた比例を重んじた。
最も純粋な達成がソールズベリー大聖堂である。1220年から38年ほどでほぼ一棟の構想のもとに建てられたため、様式的な統一が際立つ。
前段階はノルマン様式(イングランドのロマネスク)であり、その厚い壁と半円アーチを尖頭アーチが置き換えた。後続は曲線的なトレーサリーが花開く装飾式ゴシックで、初期イングランドの抑制はやがて装飾の豊かさへと展開していく。